歯周病の治療


お口の中には800種類を超える細菌が生息しています。その内十数種類の細菌が歯周病に関与していることがわかっています。歯周ポケット内の低酸素~無酸素状態において歯周病菌は活動し、歯槽骨(歯を支える骨)を溶かしながら更に深いポケットを形成し進行していきます。

一部の歯周病菌は自身の免疫反応である白血球の働きを抑制する機能を持っているため自然治癒が難しく、様々な治療を受けても少しずつ進行してしまうこともあります。つまり、歯周病の原因となる細菌の種類によってその病態や予後が異なるということです。
ブラッシングや歯石除去など基本的治療を頑張って継続していてもなかなか改善せずに悩まれている患者様もいらっしゃるのではないでしょうか。


■歯周病へのアプローチ■
歯周病は原因菌の種類や宿主(患者様)の口内環境・全身状態などによってさまざまな病態を呈するので、個々の症例に対して臨機応変に対応する必要があるのですが、私たちは治療の基本的な骨組みとして4方向からのアプローチを試みています。

①病態を正確に把握すること

一般的なポケット測定・レントゲン画像だけではなく、必要に応じてCT撮影や細菌検査(自費診療になりますので、ご希望の場合は細菌検査代22000円/回税込)を活用します。何が原因で、どの部分でどの程度の罹患があるのかを正確に見極めることが必要であると考えています。

②歯周病菌・病巣を除去すること

ブラッシングと歯石除去、進行した症例には必要に応じて歯周外科手術や抗菌薬の使用も考慮します。

③歯周病菌が活動しにくい口内環境を作ることを治療の目的にすること

歯周病菌はポケット内の低酸素~無酸素の環境下で活動するため、歯肉を引き締めポケットをできるだけ浅くして病巣を酸素にさらすことで歯周病菌の活動を抑制します。また、歯周病菌は血液中のヘモグロビンを栄養源にするため、歯肉の出血を徹底的にくい止める必要があります。
また、適合状態の悪い詰め物・かぶせ物や入れ歯なども歯周病菌の温床になるため、再治療を検討したほうが良いと考えています。

④体調の管理

歯周病菌はお口の中の常在菌ですので、発病するにはいくつかの条件が必要なわけですが、他の病気と同様に慢性的なストレスや肉体疲労によって免疫力のバランスが低下することが一因と考えられます。ストレスは自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスを崩してしまいます。ストレスによって交感神経が興奮した状態が持続すると白血球の中の顆粒球が異常に増加し、歯周病菌のいるポケットに大量に動員されます。顆粒球は数日で壊れてしまいますが、その際に放出される活性酸素によって歯槽骨にダメージを与えるのです。つまり、ストレスによって引き起こされる過剰な免疫反応が歯周病の増悪因子になるということです。
歯周病を発症するということは、体が弱っているサインかもしれません。
食生活(過栄養・偏食を見直す)や睡眠(就寝前の飲酒を控えるなど、睡眠の質を上げること)、運動(週2回、30分~1時間程度の有酸素運動)など基本的な体調管理を見直すことが必要です。歯周病治療を単なる歯の治療として考えるのではなく、体を治す意識で取り組んでいただきたいと考えています。


■歯周外科■
フラップ手術
歯周病を改善するためには歯周ポケット内のプラーク・歯石や歯周病菌の病巣を除去することが必要ですが、歯周ポケットが深く形成されていたり、歯根の形が複雑で完全に除去しきれないと炎症がなかなかおさまらず、腫れや出血を繰り返しながら徐々に歯周病は進行してしまいます。

私たちは、基本的な歯周病治療で改善しない症例に対して積極的に歯周外科治療(フラップ手術)を行っています。歯周病が進行している場所の病的な歯肉を部分的に切開し、歯石や病的組織をきれいに取り除いてから歯肉を元通りに縫合します。術後数日は軽い腫れや痛みがでることもありますが、1週間程度で徐々に回復していきます。

リグロス歯周組織再生療法
フラップ手術を行い歯周ポケット内の歯石や病的組織を除去した箇所に薬剤(リグロス製剤)を用いて歯周病によって失われた歯槽骨を再生させる治療です。
フラップ手術は歯肉を回復させ、歯周病が進行しにくい環境を整えるために行いますが、それだけでは歯槽骨は回復しません。
フラップ手術の際に、歯槽骨の失われた箇所にリグロス製剤を注入することで歯槽骨の再生が期待されます。リグロス製剤は2016年から保険適応になりましたので、保険診療の範囲内で使用することが可能になりました。ただし、すべての症例に使用できるわけではなく、歯槽骨の欠損の範囲など適応には条件がありますので、可能な症例において提案させていただきます。

 

 

歯周病のリスク


歯周病菌は血流にのって心臓に到達します。そして心臓の弁や内膜に感染し心内膜炎を引き起こします。また、心臓の血管に取り付いて血管内皮に傷をつけることにより、動脈硬化が促進され狭心症心筋梗塞脳梗塞などの発症リスクを高めます。

血管内の歯周病菌はやがて免疫により退治されますが、その死骸の持つ内毒素(細菌の細胞壁に含まれる毒物)は血液中に残り、筋肉細胞や脂肪細胞に作用して糖の代謝を妨げたり、すい臓で作られるインスリンの働きを弱めることで血糖値に大きな影響を与えます。糖尿病の予防・治療に歯周病治療は不可欠であると言えます。
また、妊娠中の女性における早期低体重児出産のリスクや、高齢者における誤嚥性肺炎のリスクを高めることも忘れてはいけません。